マンション管理組合で考えておきたい災害時の建物損傷に備える防災

木造住宅と比較すると安全性が高いといわれているマンションですが、あなたは大規模震災時にマンションにどのような被害が発生するかご存知でしょうか。インフラが破損すると、水・ガス・電気が止まるという知識はあっても、建物自体にどのような被害が出るかというのはあまり知られていないかもしれません。しかし、倒壊に至らなかったとしても建物がまったくダメージを受けていないというわけではなく、震災による被害が出ているマンションも多くあります。発災直後だけではなく、その後の被害も防ぐためにお住まいのマンションの耐震基準と、被災時に想定されるマンションの被害を知って防災に役立てましょう。

目次

旧耐震と新耐震の違い



築40年を経過したマンションにお住まいであれば、一度は“旧耐震基準“というワードを耳にしたことがあるかもしれません。耐震基準とは建物が地震に耐えることのできる構造の安全性の基準のことをいい、建築基準法にて制定されていますがあなたのお住まいのマンションは旧耐震基準と新耐震基準のどちらかであるか確認済みでしょうか。

関東大震災後に現在の建築基準法の原型といえる市街地建築物法が制定されて以来、耐震基準については大規模震災の度に制定や改正を繰り返してきましたが、旧耐震基準とは一般的に1981年5月31日以前の基準を指して言い、1981年6月1日以降の基準が新耐震基準と呼ばれています(木造に限っては2000年6月1日にも改正されたため、2000年基準と呼ばれるものもあります)。

この旧耐震基準と新耐震基準の耐震性能は大きく異なり、旧耐震基準が震度5強の地震でも倒壊せず、破損しても補修が可能である、という基準なのに対し、新耐震基準では震度5程度の地震ではほとんど被害を受けず、震度6~7の地震でも倒壊・崩壊しないことが求められます。東北地方で甚大な被害を発生させた東日本大震災や、熊本地震、北海道胆振東部地震などで最大震度7を記録したことを考えると、お住まいのマンションの耐震基準について気になるところではないでしょうか。耐震基準がどちらなのか分からない、という方はぜひこの機会に耐震基準を確認してみましょう。

建物が新耐震基準かどうかを確認する際に注意したいのが、“竣工時期が改正前や改正以降であるかどうか”ということではなく、“改正以降に建築確認が認可されている建物”が対象となるということです。建築確認は着工前に申請するため、竣工した日が改正後だったとしても建築確認が認可されたのが改正前であれば旧耐震基準が適用されます。そのため、お住まいのマンションの耐震基準を知りたい場合には、管理組合または管理会社で保管している建築確認通知書という書類に詳細の記載がありますので、それで建築確認の認可日を見ることで確認が可能です。自主管理のマンションで建築確認通知書がどこにあるか不明な場合などには、役所にて確認台帳記載事項証明という書類を発行してもらい確認しましょう。

防災対策として管理組合で備蓄などをされている組合様も多いかと思いますが、それも在宅避難できる環境や安全な建物があってこそのものです。もともと自治体の避難計画では、耐震性の高い鉄筋コンクリート造の建物の方は在宅避難を前提としていることが多い上、人口の集中している首都圏にお住まいの方は、避難所が一杯で避難所に避難ができないという可能性もあります。だからこそ備蓄や防災訓練だけではなく、住まいの安全性という面からも耐震基準を把握した上で防災計画を考える必要があるのです。

 

旧耐震基準の建物はどれだけある?



それでは、旧耐震基準のマンションは実際どの程度存在しているのでしょうか。2019年4月に国土交通省が発表した『平成30年度マンション総合調査結果(とりまとめ)』およびその添付資料『マンション総合調査の調査結果からみたマンション居住と管理の状況』によると、有効回答のあったマンション管理組合1,688組合のうち、旧耐震マンションの管理組合は303組合と約18%の管理組合が旧耐震基準であると回答しています。全国平均となるため地域によってはばらつきはあると考えられるものの、旧耐震基準のマンションは少なくないことが分かりますね。

一方、旧耐震基準だからといって、必ずしも耐震性がないということではありません。同調査によると旧耐震基準のマンション303件のなかで「耐震診断を実施した(34%=103件)」と回答したマンションのうち、約40%は「耐震性があると判断された(40.8%=42件)」と回答しています。

しかし「耐震性がないと診断された(40.8%=42件)」ないしは「さらに詳細な耐震診断の実施が必要と判断された(18.4%=19件)」マンションと、そもそも「耐震診断を実施していない(63.7%=193件)」と回答したマンションを含めると254件となり、旧耐震基準であると回答したマンション303件の80%以上が新耐震基準に適合していない、もしくは適合していない可能性があると考えることもできます。

 

直下型地震でマンションはどのくらいの被害を受けるのか



マンションは木造の建物等と比較すると、建物自体が倒壊するといった大きなダメージを受けるリスクは低いといわれています。しかし、実際に被災した時、どの程度のダメージを受ける可能性があるのかというのはあまり想像できないかもしれません。記憶に新しい直下型の大地震である熊本地震の被害状況を基に、どの程度の被害が出る可能性があるのか想像してみましょう。

(一社)マンション管理業協会が調査した熊本地震における熊本県内のマンション被災状況(2017年6月14日時点)によると、被災状況について回答のあったマンション566棟のうち、大破以上の被害(倒壊や建て替えが必要な致命的被害)があったのは1棟、中破(大規模な補強・補修が必要)が48棟、小破(タイル剥離、ひび割れ等補修が必要)が348棟、軽微(外見上ほとんど損傷なし)130棟、被害無しは39棟だったのだそう。大破~中破と回答しているのは回答のあったマンション管理組合の10%以下にとどまってはいるものの、何かしらの被害があったマンションの方がとても多いことが分かります。最も多いのが小破という結果を見ると倒壊のリスクは低いとも考えられますが、小破とはいえタイル剥離やひび割れなどある程度の被害は受けるという想定で災害に備えた防災計画をたてた方が良いといえそうです。

それでは、一番多い小破の場合への備えには何が考えられるでしょうか。普通に生活するのには問題ない程度のひび割れであっても、そこから雨漏りが発生したり、給排水管が地震の影響でひび割れて漏水する可能性があります。雨漏りや漏水は震災時でなくても発生しますが、大規模災害時に問題となるのが、

①すぐに補修してもらうことが難しい

②火災保険ではカバーできない場合がある

という2点です。

管理会社に管理を委託している管理組合では多くの場合、漏水した際に真っ先に連絡するのは管理会社になるかと思いますが、大規模震災直後は「要介護者と連絡が取れない」といった命に関わるようなものから、「この建物から避難した方がいいのか」といった避難計画に関するものまで、多くの問い合わせが管理会社に寄せられます。実際に熊本地震の際も、1日で1,000件を超える問い合わせの電話が寄せられ問い合わせ窓口の回線がパンクして繋がらなくなるといったトラブルも発生しました。つまり、管理会社に連絡をするということ自体が難しい上に、同じようなトラブルがあちらこちらのマンションで同時に発生するため対応がしきれず補修してもらうまでに通常時より時間がかかることが考えられるのです。

さらに、地震保険や地震特約を付けている場合を除き、基本的に地震で発生した被害については火災保険だけではカバーすることができません。そのため、共用部分が原因で発生した雨漏りや漏水については補修まで時間がかかり、被害が広がるほど管理組合が負担しなければならない修繕金が増えてしまいます。このように小破であったとしても、連鎖的に被害が拡大する可能性は十分にあり得ますので、雨漏りや漏水対策についてのみでなく、様々な災害を想定して建物の被害に関してもある程度管理組合で対応できる体制や環境をつくっておく必要があると考えられます。

例えば、大震災によって大きな棚や大型家電などが転倒してしまい身動きがとれないような状況になってしまっている家庭がありそうであれば、すぐに他の居住者と協力して動かせるような共助ができる体制作りをしておくのも、防災対策といえるでしょう。また、ひび割れだけでなくタイルの剥離については大きな揺れの直後に問題が無くても、その後の余震で落下して通行人に当たってしまう可能性もあります。状況が落ち着いてからになると思いますが、震災後タイルが剥離しそうな場所や、躯体に破損が見られるところなど危険箇所を見回り、危険箇所を区画できるよう、見回り係を決めたり危険箇所を知らせる看板をあらかじめ備蓄しておくといったことも有効な管理組合としての防災対策といえるのではないでしょうか。

建物自体の被害が小破で済むと仮定しても、マンションの損傷について色々な防災対策を考えて備えておく必要があることが分かりました。建物自体の損傷への対策や災害発生後の体制作りは管理組合主体で積極的に備えておきたいことではないでしょうか。

今回は主に管理組合としての防災対策をご紹介しました。
次回は旧耐震基準と新耐震基準の建物の被害の差についてご紹介します。

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