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地震でエレベーターに閉じ込められた時の対処法
もし、一人きりでマンションのエレベーター内にいたら…。
もし、エレベーターに閉じ込められてしまったら…。
とっさにどう対処したらいいか分からない方も多いのではないでしょうか。地震発生時には、エレベーターが最寄り階で停止して扉が開くのを待ってください。扉が開かない場合は、非常ボタンを押して、外部に救助を要請してください。9月は「防災月間」。これに合わせ、今回はエレベーターに閉じ込められた時の対処法と地震への備え、マンション管理組合ができるエレベーターの防災対策について解説します。
地震でエレベーターはどのくらい停止する?
エレベーターの停止時間は、震源地やマンションの建物構造、エレベーターの保守状況によって異なります。一般的には震度や揺れの強さに応じて一時停止する時間が設定されており、大地震でなければ基本的には数分から数時間以内に復旧することが多いようです。
国土交通省の「エレベーターの地震対策の取組みについて(報告)」によると、過去の地震によるエレベーター被災状況のうち、閉じ込めの最も多かったのは、震度6弱を記録した大阪北部地震(2018年6月)でした。近畿2府3県を中心に63,000台が停止し、大阪府では55.8%、京都府や奈良県でも半数近くのエレベーターが運転を停止する事態に陥りました。このうち約0.5%の346台で閉じ込めが発生しました。
閉じ込められた人の87%が「3時間以内」に救出され、残る13%は、交通渋滞で保守員の現場到着が遅れたことや、初動で保守員への情報伝達が遅れたことなどで3時間以上がかかったそうです。幸い、人身事故の発生はゼロでした。
エレベーターのメーカー各社は、閉じ込めが発生した場合、通報から救出までは「1時間程度」かかるとしています。しかし、大地震の際は道路が渋滞してメンテナンス班の到着が遅れたり、多数のエレベーターが止まって救出に時間がかかったりすることが懸念されます。
エレベーター内で地震にあった際の対処法は?
1.行き先階ボタンをすべて押して最寄り階へ避難
もしエレベーターに乗っているときに地震が発生したら、直ちにすべての階のボタンを押して、エレベーターが停止するようにしてください。2009年9月以降に着工した建物のエレベーターは、地震を感知すると安全装置が働いて最寄りの階層に自動的に停止する「地震時管制運転システム」が導入されています。しかし、古いエレベーターは階と階の間で停止する可能性もあります。最寄り階に停止できた場合は、その階で降りて安全な場所へ避難しましょう。
2.外部と連絡
万が一閉じ込められてしまったら非常ボタンを押して外部と連絡を取り、救助を待ってください。絶対に自力で脱出しようとしてはいけません。突然動き出した機械に挟まれたり、かごの下の空間(昇降路、シャフト)に落下したりする危険があります。
また、エレベーターが停止した際に、ドアが半開きのまま電源が落ちることがまれにあります。そのような時は、一度ドアを閉じてみると電気系統が復旧する可能性があるので試してみてください。
非常用インターホンが機能しなかったり係員が応答できなかったりする場合は、スマートフォンの電波が届くようであれば、エレベーター内に記載されている緊急連絡先や119番(消防署)に連絡しましょう。建物名や住所、エレベーターの位置などの情報を伝えてください。
扉にガラス窓のあるエレベーターなら、外からかごの中の様子が分かります。人が閉じ込められているのに気づいたら、直ちに救助を要請してください。
3. エレベーター内に備えられている非常グッズを確認する
エレベーターによっては「備蓄ボックス」が備えられていることがあります。これには非常灯、簡易トイレ、飲料水など非常用グッズが格納されていて、長時間閉じ込められた時に役立ちます。多くの場合は閉じ込めから3時間以内に救助されますが、特に高齢の方や小さなお子様は体調を崩しやすいため、非常用グッズを上手に活用して体力を温存することが大切です。
4. なるべく楽な姿勢で救助を待つ
救助が到着するまでの間、なるべく楽な姿勢を保つよう努めてください。エレベーター内は密閉空間ではなく通気性が保たれているので窒息の心配はありませんが、緊張状態が続くと不安から体調を崩しかねません。非常用照明も点灯しますので、閉じ込められたとしても落ち着いて救助を待ちましょう。
出典:一般社団法人 日本エレベーター協会「エレベーターの安全対策」
一般社団法人 日本エレベーター協会|昇降機の安全性について|エレベーターの安全対策 (n-elekyo.or.jp)
※地震以外の故障トラブルや停電が原因の場合は、復旧までに時間がかかることがあります。
エレベーターの防災対策
エレベーターには現在、次の五つの防災対策が建築基準法で義務化されています。
地震時管制運転装置の設置
地震時管制運転装置は、地震発生時にエレベーターの運転を自動的に停止し、利用者の安全を確保するための装置です。エレベーターが地震を感知すると、特定の加速度に基づいて自動的に停止し、最寄り階に戻りドアが開いて避難できるようになっています。
主要機器の耐震補強措置
エレベーターの主要機器には耐震補強措置が設置されており地震時に機器が損傷するリスクを低減しています。耐震補強は、エレベーターシャフトや駆動装置、制御装置などに対して行われ、地震による影響を最小限に抑える役割を果たしています。
戸開走行保護装置の設置
戸開走行保護装置は、エレベーターの戸が正しく閉じていない状態での運転を防ぐために設置されています。万が一、戸が閉まらずにエレベーターが動作しようとした場合、この装置によって自動的にエレベーターの運転が制止され、安全性を確保できるようになっています。
釣合おもりの脱落防止措置
釣合おもりはエレベーターかごのバランスを保つ役割を持っているため、地震時に脱落しないよう固定装置や補強が行われています。これにより地震による機器の異常動作を防ぎます。
主要な支持部分の耐震化
エレベーターの主要な支持部分は地震時の揺れに強くするために耐震化されます。特にシャフトやガイドレールなどの支持構造は、地震による影響を受けづらいよう設計され、補強されることで、運転の安定性と安全性を確保します。これにより、地震時においてもエレベーターは適切に運転されることが保証されます。
上記以外にも、「リスタート運転機能」や「自動診断・仮復旧運転機能」機能が追加されたエレベーターなら、閉じ込め防止や機能の継続に効果的です。この「自動仮復旧型エレベーター」は、P波(初期微動)を感知した時点で最寄り階に停止してドアを開き、乗っている人が降りられるようにします。S波(本震)が小さい場合には通常運転に戻りますが、一定以上の揺れを感知した場合には、運転を休止。専門技術者の到着後、安全を確認した上で復旧します。この機能は既存のエレベーターに追加することができます。追加するための費用の一部を補助する自治体もあるので、検討の際は市役所などにご相談ください。
マンション管理組合のエレベーター防災対策
防災対策の周知
災害発生時は「エレベーターを使用しない」など、正しい避難方法を周知しておくことが必要です。定期的に案内やポスター等を掲出し、閉じ込められてしまった時のエレベーター内での適切な行動や対応方法を分かりやすく示しておきましょう。防災訓練の時に親子で非常ボタンの場所を確認しておくと、万が一の時に思い出すことができて安心です。
防災グッズの備蓄
マンション全体の防災グッズを備蓄するのに加え、エレベーターにも非常用の水や食料、簡易トイレ、ラジオ、椅子、毛布などを格納した「備蓄ボックス」を備えておくことが望ましいです。
非常用インターホンの確認
非常用インターホンの使用方法を周知して緊急時の対応を確認するとともに、実際に誰でも使用できる状態になっているか確認しましょう。
次の写真は、築15年が経過したマンションのエレベーターです。背の低いお子様や車いす利用の方は非常ボタンに手が届くでしょうか。不安のある場合は、マンション管理組合理事会でエレベーターを更新する際の改善メニューの一つとして課題に挙げ、大規模修繕に向けて話し合っておきましょう。写真のエレベーターには防犯カメラが設置されているので、非常時には保守・管理人がエレベーター内の様子を確認できそうです。
緊急時の連絡先をすぐに確認できるように
かご内の人と連絡が取れない場合や、無人で停止してしまった場合に備え、管理組合側でも保守会社の連絡先や対応時間を把握し、エレベーターの外からでもすぐに連絡が取れるようにしておきましょう。また、緊急時の連絡先が見えにくかったりかすれて消えてしまったりしていないか・対応時間が明記されているか、といった点も定期的に確認しておきましょう。
高齢者や障害者なども含めたすべての人が暮らしやすいユニバーサル社会の実現には、建築物の分野ではエレベーター設備が重要な役割を担っています。マンションや商業施設ではエレベーターのない建物の方が珍しくなってきていますが、国は学校についてもバリアフリー化を進めるべく、2025年度末までに要配慮児童生徒や教職員が在籍するすべての公立小中学校にエレベーターの設置を予定。社会インフラであるエレベーターは、利用者の安全を守る高度な安全機能を備え、定期点検を行って維持管理されています。
もしも地震発生時に乗り合わせて閉じ込められたとしても、慌てる必要はありません。落ち着いて外部に連絡を取り、ドアが開くのを待ちましょう。