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管理組合の安心を守る「大規模修繕工事瑕疵(かし)保険」徹底ガイド

加入するのは住宅事業者や工事会社。瑕疵保険に加入していれば、万が一瑕疵が発見された場合に保険を利用することで修補をしやすくなります。また、加入には第三者の保険法人が検査を実施するため工事瑕疵を未然に防ぎ、質の高い施工が担保されます。
今回の修繕成功Magazineは住宅保証機構株式会社様ご協力のもと、瑕疵保険のうちマンションの「大規模修繕工事かし保険」について解説します。
(左から)理事・営業推進部部長 芝謙一氏、取締役執行役員 上野純一氏、東日本営業所所長 松丸祥子氏
管理組合を守る大規模修繕工事瑕疵保険

瑕疵保険は、事業者が瑕疵担保責任を履行できない場合に備える保険です。
新築住宅を供給するデベロッパーや建設業者、宅建業者などの住宅事業者は、引き渡し後10年間の瑕疵担保責任を前提に資力確保措置が義務付けられています(「住宅の品質確保の促進等に関する法律」2000年4月施行・「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」2009年10月施行)。対象は住宅の構造耐力上主要な部分や雨水の浸入を防止する部分の設計ミスや施工ミスによる瑕疵です。住宅事業者は「新築住宅かし保険」に加入し十分な修理費用を賄えるようにした上で新築住宅を引き渡すことで、消費者(住宅取得者)の利益を守ります。
一方でマンションの大規模修繕工事やリフォーム工事の場合、工事会社に瑕疵保険の加入は義務付けられていません。そこで、工事を発注する消費者(=分譲マンション管理組合や賃貸マンションオーナー)を守るために誕生したのが「大規模修繕工事かし保険」「リフォーム工事かし保険」です。工事現場ごと、工事会社の責任に対して任意で保険を掛け、万が一施工ミス等が発生した場合に修理費用等を賄います。
検査と保証が一体となった「大規模修繕工事かし保険」

「大規模修繕工事かし保険」は工事請負契約で生じる瑕疵担保責任を補填(ほてん)する国土交通省認可の保険制度で、大規模修繕工事の検査と工事完了後の瑕疵に対する保証が一体となっています。保険加入の際は第三者の保険法人による現場検査が実施されるため、工事瑕疵を未然に防ぎ、工事の品質基準が担保されます。工事完了後に欠陥や欠点が見つかった場合に補修工事費用の支払いを保証するだけでなく、万が一施工工事会社が倒産した場合でも、工事発注者(管理組合やオーナー)は保険法人に修補費用を直接請求することができる保険です。
大規模修繕工事の工事会社を選定する際は、この保険への加入の有無を確認しましょう。必要な保険料や検査料などの費用をだれが負担するかも明確にしておくと安心です。
※かし保険を利用する登録事業者(工事会社)は、一般社団法人住宅瑕疵担保責任保険協会のWebサイトから検索できます。
大規模修繕工事瑕疵保険の対象
保険金の支払い対象は大規模修繕工事で施工された共用部分のみで、下記の修繕工事個所です。
1. 構造耐力上主要な部分(耐震改修工事)
2. 雨水の浸入を防止する部分(屋根防水工事、外壁工事、シーリング工事)
3. 給排水管路・給排水設備(受水槽~揚水ポンプ~高層水槽)
4. 電気設備
5. ガス設備
6. 手すり等の鉄部防錆塗装

保険によって充電スタンドや灯油管路設備、手すりの新設・交換工事を対象にしたりする特約があります。また、保険期間は5年間、手すり等は2年間で、さらに延長保証する保険もあります。
例:大規模修繕工事の延長保証保険 ハウスプラス住宅保証(株)

保険金の支払い対象となる費用
保険金の種類は① 修補に要する費用 ② 仮住まい・転居費用 ③ 事故調査費用―などです。
修補に関する費用については大規模修繕工事の請負金額(工事請負契約書に記載の額)に応じて一定の限度額に基づき支払われます。仮住まい・転居費用や事故調査費用も限度額があります。

保険金支払いの対象になる?ならない?
保険の対象項目や保険期間は保険法人により異なり、同じ不具合でも補修工事が保険金の支払い対象になる場合とならない場合があります。具体例を見てみましょう。
外壁のひび割れ
ひび割れの幅が0・3ミリ以上、深さが4ミリ以上ある場合は基本的な耐力性能を満たさない恐れがあり、補修工事は保険金の支払い対象となります。このようなひび割れに気付いたら直ちに管理会社に相談し、原因の調査と補修を依頼してください。
一方で幅が0・3ミリ未満のひび割れは「ヘアークラック」と呼ばれ、コンクリートの特性である乾燥収縮により発生するものです。危険性は低く、急いで補修しなくても心配ありません。ただし、1平方メートル内に3カ所以上のヘアークラックが発生している場合は、不同沈下などにより力や荷重が集中しているのかもしれません。この場合は管理会社や専門家に相談して原因を特定する必要があります。
外壁タイルの浮き、剥離
仕上げタイルの浮きや剥離の補修は対象外ですが、タイルが剥がれて防水性能が損なわれた場合は対象となりえます。保険特約には大規模修繕工事で張り替えなかったタイルも含め、建物全体のタイルの落下リスクに備えるものがあります。
シーリングの不具合
サッシや玄関廻りのシーリングが硬化不良を起こし、溶け出して防水性能を保てない場合は保険の対象です。施工ミスか材料の瑕疵か判断が必要です。ベタベタに軟化してはいても生活に支障がないのであれば、瑕疵とは認められません 。
塗装
防錆目的の塗装部分が保険の対象となります。手すりの塗装が膨れたり破れたりして雨水による腐食が進むと、落下の恐れがあるからです。
段差解消、階段のすべり止め
建物の外装に当たるので対象外ですが、大規模修繕工事の中で同時に施工した場合は保険の対象になりえます。
大規模修繕工事に含まれない専有部分の内装(壁紙の剥がれなど)や給湯器などは対象外です。また、地震や台風、土砂崩れなどの自然災害、シロアリ被害、建物の劣化等も対象になりません。
● ● ● ● 保険期間の経過後は? ● ● ● ●
契約した保険期間が過ぎた後に生じた不具合は、有償で補修工事を依頼することになります。ただし、住宅事業者が故意に、または注意不足により建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵のある施工をした場合は、民法上補修請求等ができる場合があります。どこまで補償されるかを含め、早めに管理会社または専門家に相談してください。
住宅瑕疵担保責任保険法人(保険会社)
国土交通大臣指定の住宅瑕疵担保責任保険法人は次の5社です。保険の主な内容は共通していますが、特約などで異なる部分もあり、料金は保険法人ごとに決めています。
登録事業者
瑕疵保険を利用する登録事業者(工事会社)は、一般社団法人住宅瑕疵担保責任保険協会のWebサイトから検索できます。
瑕疵保険適用の流れ
それでは、実際に大規模修繕工事瑕疵保険を適用する場合の流れを見てみます。

1)不具合の発見
不具合の補修工事を発注するのはマンション管理組合です。日常の管理を外部に委託している場合は、管理組合理事会が管理会社に相談し、工事会社への連絡など対応を依頼します。自主管理を行っているマンションの管理組合は、工事会社の担当者に直接連絡します。
不具合を発見したのが居住者であった場合は、まず理事会役員が発見者の話をよく聞き、発生時期や状況がわかるメモや写真など資料を準備しましょう。
2)管理会社への報告、専門家への相談
不具合が疑われる部分を見つけても、一般居住者にはそれが工事の欠陥・瑕疵なのか経年劣化なのか判断がつきません。また、専有部分の壁紙の剥がれや渡り廊下の手すりのズレなどの不具合は瑕疵に当たりませんが、同じような事象が複数の箇所で見られる場合、その発生原因は建物本体工事の瑕疵によるものかもしれません。
きちんと調べて原因を特定するには、どこに相談したら良いのでしょうか。
専門家に相談
管理会社に工事部門があれば、不具合を報告するとともに簡易調査を依頼することができます(※1)。建物全体に同じような不具合が発生していないか、日常点検の中で合わせてチェックしてもらいましょう。相談先の心当たりがない場合は、自治体が委託・連携するマンション管理組合団体やマンション管理士団体、地域の設計者団体の相談窓口などに問い合わせ、修繕専門のコンサルタントを紹介してもらうと良いでしょう(※2)。
※1 管理会社が管理組合の代表となり工事等の受発注者となる場合は、公平性に疑義が生じる〝自己取引〟による利益相反の懸念があるため、国土交通省は法整備を行い、今後管理会社に対して区分所有者への事前説明を義務付ける方針です。2025年3月4日、マンションの管理・再生の円滑化等のための改正法案を閣議決定しました。
3)補修工事と保険請求
不具合の報告を受けた工事会社は補修工事を行う義務があります。現地確認などの手配と同時に住宅瑕疵担保責任保険法人へ事故発生報告を行い、不具合が保険の対象となると判断された場合は、後日、見積書や修補完了報告書等を作成して保険金の請求を行います。請求のためには保険法人の現場調査が必要な場合があり、マンション管理組合で勝手に修補したりすると保険金が支払われないこともあるので注意が必要です。
4)工事会社とのトラブル対応
工事会社に補修義務があるのにもかかわらず、口頭やメールで伝えても対応しないといったケースがあります。そのような時は補修を依頼する書面を理事長名で作成し、回答期限を区切り、内容証明郵便などで工事会社宛てに送付します。依頼が正式なものであると印象付けて対応を促します。 不具合の補修が緊急を要する場合は、第三者の専門家(※2)に相談するなどし、補修が可能であれば、他の工事会社に工事を依頼した上で費用を請求する可能性がある旨を書き添えます。 依頼交渉の内容を書面に残しておけば、次期以降の理事会役員への引継ぎが容易で、類似した問題が起きた際の参考資料としても役立ちます。
5)工事会社が倒産した場合の対応
大規模修繕工事を行った工事会社が倒産するなどした場合、他の工事会社に補修を依頼せざるを得ません。保険の対象になる不具合であれば、管理組合は保険法人に対し補修費用を直接請求できます。大規模修繕工事の完了後に受け取る保険証券を確認し、保険法人に問い合わせてください。

※2 第三者の専門家窓口
●自治体の相談窓口
・東京都 マンションポータルサイト
・神奈川県 マンションに関する相談窓口
・横浜市 マンション管理に関する相談窓口
・川崎市 マンション管理に関する相談窓口
・相模原市 マンション相談について
・横須賀市 マンション相談会
・千葉県 住まいの専門相談機関
・千葉市 住まいに関する相談窓口
・埼玉県 住まい相談プラザ
●公益財団法人マンション管理センター
日常の管理組合運営や建物・設備の維持管理等に関しての相談を受けます。
電話:03-3222-1517 受付時間:平日の午前9時半~午後5時(年末年始、夏期休暇、祝祭日を除く)
●公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター
「住まいるダイヤル」で紛争に関する相談を受けます。
電話: 03-3556-5147 受付時間:平日の午前10時~午後5時
●NPO法人リニューアル技術開発協会
管理組合を支援するため2021年に相談窓口を開設し、最初の調査を行う会員企業を無料で派遣しています。詳細なコンサルティング業務や顧問契約を依頼したい場合の相談も受け付けます。
電話:03-3297-0176 受付時間:火・水・木曜の午前10時~午後4時(年末年始、夏期休暇、祝祭日を除く)
まとめ
大規模修繕工事に欠陥があっては困りますが、工事の品質は天候や暑さ・寒さに左右されることがあるため、完全無欠で非の打ちどころのない仕上がりは確約しにくいものです。万が一瑕疵が見つかった場合でも、工事会社が品質保証の裏打ちとして瑕疵保険に加入していれば安心です。瑕疵保険への加入を確認することは、工事会社選定で重要なチェックポイントの一つ。住まいの安心を確保するために、管理組合として保険の内容や手続きについてきちんと理解しておきましょう。そして保証期間が切れる前に点検を行い、不具合個所を補修することをお忘れなく。
マンションの建物診断についてこちらの記事もご覧ください。
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