マンションの理事長とは 仕事内容と役割

マンション管理組合を運営する理事会の代表、理事長。理事長は副理事長や会計担当など他の理事らと協力してマンションの維持・管理を推進します。理事会役員は区分所有者から選任された理事の中から互選しますが、多くの管理組合では理事就任を輪番制とし、役員もくじ引きなどで決めるようです。初めて役員になった方は、何をやればいいのか、どんな責任があるのか、不安に感じるかもしれません。中でも理事長の仕事はマンションの維持・管理全般にわたるだけでなく、総会の招集を始め管理費等に未収が生じた場合の訴訟提起などが含まれ、大規模修繕工事のタイミングであれば修繕委員会との連携にも目を配ります。今回の修繕成功Magazineは「理事長」に焦点を当て、その役割と仕事を解説します。

目次

管理組合の理事長の役割とは


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(理事長はマンションの代表)

理事長はマンションの管理者、言いかえるならばマンションの代表です。国土交通省の『マンション標準管理規約』では理事長の役割を下記の通り定義しています。

(理事長)

第38条 理事長は、管理組合を代表し、その業務を統括するほか、次の各号に掲げる業務を遂行する。

一   規約、使用細則等又は総会若しくは理事会の決議により、理事長の職務として定められた事項

二   理事会の承認を得て、職員を採用し、又は解雇すること。

2    理事長は、区分所有法に定める管理者とする。

3    理事長は、通常総会において、組合員に対し、
      前会計年度における管理組合の業務の執行に関する報告をしなければならない。

4    理事長は、○か月に1回以上、職務の執行の状況を理事会に報告しなければならない。

5    理事長は、理事会の承認を受けて、他の理事に、その職務の一部を委任することができる。

6    管理組合と理事長との利益が相反する事項については、理事長は、代表権を有しない。
           この場合においては、監事又は理事長以外の理事が管理組合を代表する。

この他、理事長にはマンションの居住者からさまざまな相談が寄せられることがあります。管理業務を外部の管理会社に委託している場合でも、理事長は管理者としての責務を免れられません。

それでは理事長はどこまで関与するべきなのでしょうか。まず、基本的な考え方を整理しましょう。マンションに存在するさまざまな問題を調査・分析しているマンションみらい価値研究所(東京都港区)によると、ポイントは次の3点です。

(1) その問題は誰が解決すべきなのか
管理組合が対応すべきことなのか、それとも管理会社なのか、問題の内容を把握し、見極める

(2) どこのお金で解決するか
復旧工事などを行う場合は費用が発生する。管理費・修繕積立金・保険でまかなう他に加害者等に請求する場合もあり、お金の出所によって手続きや決め方が変わる

(3) 善後策を定める
復旧や解決すれば終わりではない。理事会でしっかりと再発防止の対策を協議したり、住民に注意喚起したりすることが必要なケースがある。総会等で報告すべき場合や、細則等に新たに定めておくべき場合もある

問題が発生したら理事長が窓口となり、「(1)だれが解決すべきなのか」を判断します。

例えば、「敷地内に無断駐車している車両がある」、「廊下に荷物を置いたままの住戸がある」など共用部分の問題は管理組合として対応します。マンションの管理規約や細則を確認し、区分所有法や民法、国などのガイドラインを参考に対策を講じましょう。場合によってはマンション管理士や弁護士などの外部専門家に助言を求めたり、自治体窓口に相談したりすることもあります。

「給湯器からお湯が出ない」「玄関の鍵を紛失した」「郵便物の配達間違い」などは区分所有者の問題で理事会は関与しません。相談できる窓口を紹介するにとどめ、当事者間での解決を促しましょう。

「(1)だれが解決すべきなのか」が分かれば、「(2)どこのお金で解決するか」も容易に判断がつきます。例えば、居住者がフェンスに車をぶつけてしまいフェンスの交換が必要になったような場合は、基本的にはぶつけた本人の費用で復旧してもらいます。ただし、破損の範囲や状況によっては、管理組合の費用または保険でまかなうこともあります。

問題が解決したら内容を記録し、参考資料として保管しましょう。「(3)善後策を定める」で「復旧や解決すれば終わりではない」とある通り 、住民に情報を共有して注意を喚起するとともに新たなルールを定めるなどして予防、再発防止に役立てることが大切です。

マンションみらい価値研究所では、事前に管理会社にどこまでサポートしてもらえるのか知っておくこともアドバイスします。管理会社に委託した業務の範囲、つまり「どこまでお願いできるのか、やってもらえるのか」を理解しておきましょう。なにもかも管理会社に任せて良いわけではないのでご注意ください。

管理組合の理事長の仕事

マンション管理に関わる関係者
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(出典:横浜市マンション管理組合基礎セミナー「新任理事の心構え」)

次に理事長の実際の仕事をみていきます。

~日常業務~

『マンション標準管理規約』の中で管理組合業務は下記の通り定められており、理事長はこれを統括します。

1   管理組合が管理する敷地及び共用部分等の保安、保全、保守、清掃、消毒及びごみ処理

2   組合管理部分の修繕

3   長期修繕計画の作成又は変更に関する業務及び長期修繕計画書の管理

4   建替え等に係る合意形成に必要となる事項の調査に関する業務

5   適正化法第103条第1項に定める、宅地建物取引業者から交付を受けた設計図書の管理

6   修繕等の履歴情報の整理及び管理等

7   共用部分等に係る火災保険、地震保険その他の損害保険に関する業務

8   区分所有者が管理する専用使用部分について
            管理組合が行うことが適当であると認められる管理行為

9   敷地及び共用部分等の変更及び運営

10   修繕積立金の運用

11   官公署、町内会等との渉外業務

12      マンション及び周辺の風紀、秩序及び安全の維持、防災並びに
             居住環境の維持及び向上に関する業務

13  広報及び連絡業務

14  管理組合の消滅時における残余財産の清算

15  その他建物並びにその敷地及び附属施設の管理に関する業務

出典:マンション標準管理規約

管理会社に管理業務を委託している場合は、理事会の定例会で進捗の報告を受けます。定期報告事項の他に居住者からの要望や問い合わせなどの報告があれば、理事らとともに対応を検討します。

この他理事長には日常的に管理会社から業務連絡が入り、指示を出すべき場面もあります。管理会社の担当者と連絡が取りやすいよう、携帯電話やメール、LINEなどさまざまなチャネルを用意しておくとスムーズです。

~代表者業務~

契約行為や届出の処理業務、理事会の開催、総会の開催など代表者としての業務は次のとおりです。

一        損害保険契約の締結、保険金額の請求及び受領

二        損害賠償金及び不当利得返還金の請求及び受領

三        職員の採用・解雇

四        預金口座開設契約、借入れ等に係る契約の締結

五        駐車場、敷地及び共用部分等に係る使用契約の締結

六        その他第三者との契約行為

七        組合員等からの各種届出等(組合員の資格の得喪に関する届出、専有部分の貸与の場合の誓約書、専有部分の修繕等に係る申請書、占有者の総会における意見陳述権行使の事前通知、議決権行使者の届出、代理権証明 書等)の受理及び処理

八         組合員等からの報告・連絡・相談への対応及びこれらに関する理事会、総会その他会議の関連資料の作成

九         組合員等が法令、管理規約又は使用細則等に違反した場合の勧告、指示、警告

十         総会及び理事会の招集、議長、その他会議への出席・報告・助言

十一     総会及び理事会の議事録及び書面決議の書面(電磁的方法が利用可能な場合は電磁的記録を含む。)、その他帳票類等の保管、閲覧並びに総会及び理事会の議事録及び規約原本等の保管場所の掲示

十二     総会の決議に基づき物件の管理業務の一部を委託する専門業者その他の第三者との折衝、当該第三者の業務の履行確認及び指示等

十三     会計帳簿等の整備状況の確認、管理業者が作成した収支予算案・決算案の素案の確認

十四      未納の管理費等の徴収に係る理事会又は総会等への報告・助言及び督促

十五      その他管理組合の業務を総括する上で必要な業務

(出典:国土交通省「外部専門家の活用ガイドライン参考資料」

これらの業務は管理会社がサポートしてくれるものがほとんどなので、専門知識がなくても大丈夫です。

●管理組合業務について、こちらの記事もご覧ください。

マンションの管理組合とは?理事会の役員の業務内容
建物の未来のためのお役立ち情報『修繕成功Magazine』|株式会社ヨコソー (yokosoh.co.jp)

~窓口業務~

理事長の仕事はマンションの内部だけにとどまりません。お祭りや清掃などの地域活動に参加している管理組合では自治会・町内会との連絡や打ち合わせが必要です。大規模修繕工事の際は、施工会社とともに近隣へのあいさつにも出向きます。このような対外的な窓口業務も理事長の仕事の一つです。

~大規模修繕工事に関する業務~

大規模修繕工事のタイミングで理事長に就任した場合は、通常の業務に加えて大規模修繕工事の検討作業にも目配りが求められます。理事長の負担はさらに大きくなり、管理組合の運営に支障が出る恐れもあります。そこで、多くの管理組合では大規模修繕工事の検討に特化した専門委員会「大規模修繕委員会/修繕委員会」(以下、修繕委員会)を立ち上げ、作業を分担します。
修繕委員会での検討内容は理事会定例会の場で報告してもらいますが、修繕委員会の会議や施工中の安全パトロールなどには理事会から一人以上、理事長または理事が出席することが望まれます。修繕委員会の活動の場に同席して実際を理解することで、理事会と修繕委員会との情報共有や意思疎通がぐっと円滑になるからです。

~専門委員会の設置~

専門委員会を設置するのは理事長です。修繕委員会も同様に理事会の下部組織であり、理事長の諮問に対して調査・検討し答申する機関です。修繕委員会での決定は法的な効力があるものではなく、最終的な責任は理事会にあることに留意しましょう。

専門委員会の設置については国土交通省の『マンション標準管理規約』に次のとおり定められています。

(専門委員会の設置)

第55条    理事会は、その責任と権限の範囲内において、専門委員会を設置し、
               特定の課題を調査又は検討させることができる。

2             専門委員会は、調査又は検討した結果を理事会に具申する。

(出典:国土交通省 マンション標準管理規約)

小規模なマンションでは理事長が修繕委員長を兼務することがありますが、専門委員会を設置することで、より多角的で客観的な検討結果を導き出すことも期待できます。

●理事会と修繕委員会に関する記事はこちらをご参照ください。

マンション大規模修繕工事の進め方<その1> 理事会と修繕委員会について
建物の未来のためのお役立ち情報『修繕成功Magazine』|株式会社ヨコソー (yokosoh.co.jp)


委員会の業務は管理組合の予算で執行します。新しい委員会を設置する場合、理事長は事前に総会または臨時総会で組合員にその旨を報告し、委員会の活動目的と役割、責任の範囲を明確にする必要があります。

合意を得たうえでスタートすることで組合員の協力を得やすくなり、委員の募集も円滑に進めることができるでしょう。これは修繕委員会だけでなく防災活動や花壇の手入れなどの専門委員会を設置するときも同様です。

理事長の仕事を進めるコツ

このように理事長の仕事は多岐にわたり、大変忙しいものです。しかしながら理事長も自身の仕事や家庭での役割があり、朝から晩まで“理事長仕事”にかかりきりになるわけにはいきません。特に現役世代の方が理事長になった場合は、マンションには夜間や休日しかいないため他の理事や管理会社が連絡を取りにくいということもあります。

そのような中でも理事長の仕事を進めるコツを考えてみましょう。

~協力を求める~

理事長仕事を効率的に進めるには、管理組合のパートナーである管理会社との協力体制を整えることが重要です。多くの管理会社には長年蓄積してきた情報や経験があるので、困ったときは類似案件がないか照会しアドバイスを求めると良いでしょう。

管理会社の担当者とは平日のオフィスアワーでも連絡がとれるよう、都合のよい電話番号や時間帯を伝えておく、交換日記形式の連絡帳を活用する、などの工夫をしてみることをお勧めします。そうすれば理事長も管理会社も仕事がはかどり、マンション全体のメリットになります。

積極的に周囲の協力を求めることも望ましいでしょう。居住者の中には金融や会計に詳しい人、防災管理のノウハウのある人などさまざまな分野のエキスパートがいるものです。そのような方々に声をかけ、専門委員会を立ち上げるなどして理事会業務の一部を担ってもらうことも一つの方法です。法律や建築工事に関する専門知識が必要な時は、早い段階で地元の自治体またはマンション管理士会などの専門家集団にアドバイスを求めると良いでしょう。各地の自治体には管理組合に向けた相談窓口があります。積極的に活用しましょう。

横浜市における専門家や関係団体のネットワーク

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(出典:横浜市マンション管理組合基礎セミナー「新任理事の心構え」)

~情報の記録と共有~

もう一つのコツは、管理組合として情報を記録、共有することです。

理事長を含め理事会役員が1~2年の任期で交代する管理組合では、活動の継続性と情報の蓄積が難しく、新たな理事会で同じ問題を最初から検討し直すことがあります。そのような手戻りを避けるためにも理事長は活動の顛末を記録に残すよう努めましょう。管理会社が理事会議事録を作成するときも、ご自身が持っている情報を積極的に書き加えてください。例えば、何かの相談で訪れた自治体窓口の電話番号や担当者の名前などです。

そうすることで、将来の理事会活動の助になるでしょう。

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(出典:横浜市マンション管理組合基礎セミナー「管理組合の運営」)

きちんと記録を残すことは、理事会で何をしたか・しなかったかを明らかにすることにつながります。活動内容を透明化すればするほど、区分所有者が理事会に寄せる信頼の度合いが高まるもの。信頼関係の強化も理事長仕事を進めるコツの一つです。

~理事長個人で対応しない~

ここまで理事長が“やること”を見てきました。一方で“やってはいけないこと”もあります。
それは、理事長が個人で対応すること・一人で抱え込むことです。

理事長はマンションの代表ですが、なんでも自由に決められるわけではありません。独断でできることはほとんどなく、何かをやろうとする時は理事長決議が、規約の変更などは総会決議が必要です。管理組合における最高意思決定機関は総会であり、理事会はその執行機関です。従って、どのような問題であっても理事長が一人で解決しようとしてはいけないのです。

理事長に就任する際の不安材料の一つに、居住者から個人攻撃を受けたりすることへの懸念があります。先に述べた記録、共有の作業はその対応策としても有効です。

ある管理組合の理事長は、過度なクレームを受けるような事態に直面したら、

「記録に残すため、ご要望を書面で提出してください」

「私一人で決められません。理事全員できちんと検討します」

「意見がある場合は理事会に出席して述べてください」

―と相手に伝えると話していました。それだけで効果てきめん、理事長への個人攻撃がトーンダウンするそうです。それでも攻撃が止まらない場合は、電話を切る、ドアを閉める、その場を立ち去るなどしてトラブルを予防するとのこと。クレームだからとシャットアウトするのではありません。理事長が一人で抱え込み個人で対応するのではなく、マンション全体の問題として理事会で適切に対応するため、時と場所を変えるのです。

なお、クレームだけでなく要望の申し入れや相談は、実名と連絡先を記載した書面で提出してもらいましょう。書面があれば、理事会で共有し正式な検討に入るのが容易です。実名があれば、詳しい状況説明を求めることができます。真偽が分からないクレームや要望には対応できないこと、意見や相談は記録に残すことを周知しておきましょう。

●理事長の仕事に関する記事も、こちらをご参照ください。

マンションの管理組合とは?理事会の役員の業務内容
建物の未来のためのお役立ち情報『修繕成功Magazine』|株式会社ヨコソー (yokosoh.co.jp)

まとめ

理事長になると、管理組合の業務や理事会への出席で一定の時間を取られるのは避けられません。しかし、理事長を務めることで得られるものも多くあります。マンション内のことがよく分かるようになり、自ら提案して住みやすい環境を整えることが可能になります。知り合いが増え、地域とつながる機会も多くなるでしょう。特に大規模修繕工事の期間中に理事長を務めると、修繕委員会のメンバーやコンサルタント、施工会社の社員などこれまでと異なる業種の人と知り合うことができ、人脈を広げるチャンスでもあります。任期はあっという間に終わってしまいます。より良いマンションライフのために、ひと汗流してみませんか。

※今回の記事作成にあたり、現役のマンション管理員が運営するウェブサイト「マンション管理最前線 管理人は超つらいよ」を参考にしました。

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