改修と修繕・補修とは?それぞれの違いと大規模修繕工事

住まいを快適に保つためにはメンテナンスが欠かせません。新築時の美しさや機能を維持・保全する修繕工事や、応急的な補修工事、陳腐化した設備や仕様を時代に合わせてアップグレードする改修工事の三つのお手入れを重ねることで、住まいは素敵な状態で長持ちします。
マンションの場合は長期修繕計画を策定し、十数年ごとのスパンで共用部分の“大規模修繕工事”を実施します。こちらは“修繕工事”ではありますが、この大規模修繕工事のタイミングで必要な補修工事や改修工事をまとめて施工することで、工事費用の削減や工事毎に発生する居住者の生活への負担を減らすことが期待できます。
今回の修繕成功magazineでは修繕・補修・改修の違いや、大規模修繕工事で検討するとよい項目を紹介します。準備の進め方や工事費の相場、積立金の目安などもみていきます。

目次

修繕とは

外壁や鉄部(メーターボックス・消火栓ボックス)などの汚損や剥がれ、錆付きをクリーニングしたり塗装したり、悪くなった部位や消耗部品を現状と同程度のもので取り換えたりする、新築時の資産(マンション)価値や機能の維持を目的とした工事が“修繕工事”です。

建物は常に雨や紫外線に晒されているため、メンテナンスをしないとどんどん劣化してきてしまいます。十数年に1度行う大規模修繕工事と呼ばれる足場をかけて行う大がかりな工事を含め、修繕工事は定期的に行えるよう長期修繕計画書でマンション毎に計画がされています。

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長期修繕計画書に定められた修繕は予定の時期に検討され、毎月積み立てている修繕積立金から支出されますが、マンションの立地などによっては劣化が進みやすい場所で計画外の修繕が必要となる場合もあります。

修繕工事は基本的に総会の普通決議や特別決議をもって修繕積立金から支払われます。計画外に修繕が必要となった場合は“60万円”など管理規約で定めた金額の範囲内で、毎月徴収する管理費から支出し、総会決議を経ず理事会の決定で実施されるケースもあります。

大規模修繕とは

前述のように修繕工事の中でも建物外周に足場を掛けるような大掛かりな工事が、大規模修繕工事と呼ばれます。大規模修繕工事を行う周期は、マンションによってそれぞれ異なりますが、十数年に一度の周期で行われるのが一般的です。

日頃からメンテナンスを行っていても、建物は長い年月の間に雨風や紫外線、地震などの影響を受けて少しずつ劣化していきます。建物の老朽化を防ぎ、安全・安心で快適な住環境を維持するためには、目や手の届かない範囲までメンテナンスを行う大規模修繕工事が必要不可欠。大規模修繕工事は施工範囲が広く費用も高額になるため、長期修繕計画を策定し、計画的に工事を進めることが大切です。

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補修工事とは

劣化や不具合を応急的に処置する工事を補修工事といいます。機能を新築時まで回復させることを目的としている修繕工事とは違い、住戸への漏水など緊急で対応が必要なケースや、予定されている修繕工事までのつなぎとして行われます。

補修工事の場合、経常的なものについては管理費から支払われますが、台風など自然災害による破損、給排水管の経年劣化による漏水などは管理組合で加入契約している火災保険等でカバーできます。

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改修工事とは

陳腐化した設備や部材をグレードアップしたり、新たな機能を付け加えたりするのが改修(または改良)工事です。遮音・断熱性を高める複層ガラスへの改修やスロープ設置によるバリアフリー化などもマンションの価値を向上させる改修工事に該当します。特に足場が必要なものや大掛かりなものは大規模修繕工事のタイミングでまとめて実施することで、費用や居住者負担を軽減できます。

大規模修繕工事の周期(横浜市「マンション管理・再生の手引き」より) (1).jpg
出典:マンション管理・再生の手引き(横浜市)

大規模修繕のタイミングで一括施工

前述の通り、マンションの大規模修繕は十数年ごとの周期で建物の外側に足場を架けておこなう大規模な修繕工事のことを指します。このタイミングで足場の必要な補修や改修をまとめて行えば、工事中の騒音や臭いといった居住者の生活負担を最小限に抑え、費用総額の縮小も期待できます。

サッシや玄関ドアの交換、エントランスや廊下の照明のLED化、駐車場・駐輪場の拡大や縮小、外灯の増設など、マンションの利便性や経済性、安全性を高め、資産価値を向上させる改修工事にもいろいろな種類があります。共用部分の改修工事は、居住者一人ひとりに要望があるもの。大規模修繕工事の時期が近付いたら、管理組合で居住者全員を対象にしたアンケート調査を行い、改修の要望を収集・整理しておくのがおすすめです。


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大規模修繕工事内で行った改修工事の事例
あるマンションでは大規模修繕のついでにゴミ集積場の入り口と駐車場からのアプローチに庇(ひさし)を設置したところ、雨の日に傘をささなくても出入りできるようになったと大変好評だったそう。理事でなくても「なんとなく不便だな」と気付くことがあれば、積極的に改善策を提案してみると、大がかりなものでなくても大きな満足感を得られる改修工事につながります。


マンションの計画修繕の基本的な工事項目と、そのグレードアップの主な内容は次の表の通りです。

■計画修繕項目についての改良工事の主な内容(概要)

1.建築関係
(1)建築工事

工事項目 修繕工事の主な内容 改良工事の主な内容
(既存性能のグレードアップ)
(1)鉄・アルミ部等塗装工事 屋上、バルコニー、廊下、階段室、遊戯施設・自転車置場等の外構工作物等の鉄部及びアルミ・ステンレス部の塗装塗替え 塗料のグレードアップ、吹付け塗装による仕上げ感のアップ、脱着塗装
(2)躯体改修工事 外壁、共用廊下・階段、バルコニー等のコンクリート壁・上げ裏(天井面)・手すり壁、庇等の劣化・損傷箇所の修繕 再アルカリ化等によるコンクリート躯体の中性化抑止、片持ちスラブの補強
(3)外壁仕上げ改修工事 外壁、共用廊下・階段、バルコニー等のコンクリート壁・手すり壁、庇・バルコニー上げ裏(天井面)等の吹付け塗装部の再塗装、タイルの洗浄及び劣化・損傷箇所の修繕 塗料の性能、外壁仕上げ材のグレードアップ、仕上げによる中性化抑止、外壁の外断熱改修
(4)シーリング改修工事 サッシ周り、コンクリート打継目地、PC板目地、スリーブ周り、庇等入隅部、金物端部等のシーリング材の劣化部の打替え防水 シーリング材の性能のグレードアップ
(5)屋根防水改修工事 屋根、屋根庇、階段出入口等の庇の防水層の劣化・漏水等に対する屋根スラブの躯体修繕及び屋根防水層の全面的な修繕・改修 防水仕様のグレードアップ、屋根の外断熱防水、笠木等の材質のグレードアップ、屋上の排水能力の向上
(6)床部改修工事 バルコニー、開放廊下・階段室の床・庇・梁型天端等の防水工事 防水層の新設、防水仕様・工法のグレードアップ、開放廊下・階段室踊り場の雨水吹き込み対策・排水対策、段差部のバリアフリー化
(7)ドア改修工事 住戸ドア及びパイプスペース・メーターボックスの扉の塗装塗替え・取替え、付属金物の取替え 住戸ドア・住戸ドアの付属金物・住戸ドア周り、パイプスペース扉等のグレードアップ、耐震玄関ドアへの取替え、住戸ドアのピッキング対策
(8)サッシ改修工事 サッシ及びサッシ周りの付属金物の修繕・取替え、窓面格子・窓手すり・防犯雨戸・鎧戸等の取替え サッシ及びサッシ付属金物の取替え等による性能のグレードアップ、窓面格子・窓手すりの取替え、雨戸の追加・増設、住戸窓の防犯対策
(9)金物類改修工事 上記のドア・サッシの付属金物以外の全ての金物類の劣化・損傷箇所の修繕・取替え 金物類の材質のグレードアップ、使用安全性・容易性を高めた製品への取替え、手すりの設置
(10)屋外鉄骨階段改修工事 屋外鉄骨階段の手すり・踏板・踊り場等の錆・腐食箇所の修繕 踏板の防水・排水・消音・安全性確保・耐震補強工事、屋外鉄骨階段の取替え
(11)内壁・内装改修工事 建物の内部階段・内部廊下、管理事務室・集会室等の壁面、床面、天井面の劣化・損傷箇所の修繕 内壁コンクリートの中性化防止対策、内装塗料の性能・内装材のグレードアップ、シックハウス対策
(12)エントランス改修工事 エントランスホール、エントランス周りの床・壁・天井等の内装の全面的模様替え エントランスホール及びアプローチ部分の仕上げ等のグレードアップ・バリアフリー化、エントランスドアの性能のグレードアップ、エントランスホールの防犯対策

(13)浴室防水改修工事水

住戸浴室の床防水層の劣化・損傷箇所の修繕、全面防水改修 防水仕上げ材、床・壁等の仕上げ材のグレードアップ、浴槽のグレードアップ等

2.設備関係
(1)機械設備工事

(14)給水設備改修工事 屋内・屋外共用給水管、住戸内専用給水管の更生・取替え工事、給水装置・給水施設のオーバーホール・劣化・損傷箇所の修繕・取替え 給水管、給水装置、給水施設の材質のグレードアップ、受水槽・高置水槽の耐震工事、給水ポンプ等の防振・防音工事、電動機のグレードアップ、給水システムの変更
(15)排水設備改修工事 屋内・屋外の雑排水設備、汚水設備、雨水排水設備、屋外枡管路の劣化・損傷箇所の修繕・取替え 雑排水管・汚水管の材質のグレードアップ、排水能力のアップ、排水システムの変更、排水管清掃口の新設・増設、洗濯機パンの設置
(16)消火設備改修工事 屋内消火栓設備、連結送水管設備の劣化・損傷箇所の修繕・取替え 機器類及び配管の材質のグレードアップ
(17)ガス管改修工事 ガス管(屋内・屋外共用、住戸内専有)及びメーターの劣化・損傷箇所の取替え ガス管の材質のグレードアップ、配管サイズのアップによる供給能力の向上
(18)給湯設備改修工事 給湯管の更生・取替え工事、給湯器の取替え工事 給湯管の材質のグレードアップ、ガス機器のシステムの変更・性能のグレードアップ、ガス給湯器から電気給湯器への取替え
(19)冷暖房設備工事 - 冷暖房設備の共用配管カバーの新設、共用廊下側へのエアコン用スリーブ・室外機置場の新設、冷暖房設備の性能のグレードアップ
(20)換気設備改修工事 換気口・換気扇・ダクト類の清掃及び修繕・取替え工事 材質のグレードアップ、共用立てダクトの給排気能力の向上

(2)電気設備工事

(21)電灯幹線・動力設備
  改修工事
電灯幹線及び電力設備の劣化・損傷箇所の修繕・取替え 電灯幹線の引込み数の増加、低圧引込から高圧引込への変更、幹線改修、トランスの増設による容量増量工事
(22)照明器具・配線器具
   改修工事
共用廊下・階段、エントランスホール等の照明器具及び配線器具の劣化・損傷箇所の修繕・取替え 照明器具の性能・デザインのグレードアップ、LED化、自動点滅器による点灯・消灯方式への変更、安定器の性能のグレードアップ、防犯灯の増設、防犯カメラの設置
(23)情報通信設備改修工事 電話端子盤、MDF盤、IDF盤、引込み管路等の劣化・損傷箇所の取替え MDF盤・IDF盤のセキュリティー対策、インターネット接続環境の整備、インターホン設備の導入
(24)テレビ共聴設備
  改修工事
テレビ共聴アンテナ、増幅器盤、分岐・分配器盤、同軸ケーブル等の劣化・損傷箇所の取替え 双方向システムの導入等に伴う同軸ケーブルの性能のグレードアップ、高度な受信形態に適したテレビ配線システムの改善(※4修工事K8K対応等)
(25)防災設備改修工事 自動火災報知設備、非常警報設備、誘導灯設備、非常コンセント設備、非常用照明設備等の劣化・損傷箇所の修繕・取替え 誘導灯の性能のグレードアップ、放送設備の整備
(26)避雷設備改修工事 避雷突針、避雷針支持ポール、避雷導線、接地銅板等の劣化・損傷箇所の取替 -

3.外構・土木関係
(1)外構・土木工事

(27)エレベーター設備
  改修工事
エレベーターのロープ、モーター、巻上げ機、カゴ、扉、制御盤等の劣化・損傷箇所の修繕・取替え エレベーターの性能のグレードアップ、マシンルームレスエレベーターへの取替え、エレベーターシャフトの耐震補強
(28)機械式駐車場工事 機械式駐車場の駐車装置、制御盤、検知装置、操作盤、昇降装置、安全装置等の劣化・損傷箇所の修繕・取替え 機械式駐車場の導入・増設、機械式駐車装置の性能のグレードアップ

出典:「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」(国土交通省、令和3年9月改訂)

大規模修繕の相場と積立金の目安

最後に、気になる工事費用についてみていきます。

国土交通省の『令和3年度マンションの大規模修繕工事に関する実態調査』によると、大規模修繕の費用は1戸あたり75万~125万円とする割合が半数以上を占めています。この工事金額には共通仮設工事・足場仮設工事の費用は含まれていないため実際の工事ではさらに高額となることが予想され、。工事の実施が近付いてから全額を遅滞なく一括で徴収することは困難なため、将来の修繕工事を予想した長期修繕計画を策定し、これに基づいた費用を月々積み立てて備えることが重要です。

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積立方法は修繕工事費の累計額を均等に積み立てる“均等積立方式”や当初の積立額を抑えて段階的に値上げする“段階増額積立方式”、一時金の徴収や金融機関からの借り入れを前提とした“一時金徴収方式”などがあります。

均等方式の場合、毎月の積立額の目安は専有面積1㎡当たり”170~430円”で、平均値は”252~338円”です(下表)。工事価格はマンションの規模や形状、所在地域の建設物価で変動し、仕上げ材や設備のグレードによって修繕の周期も異なります。区分所有者のニーズを踏まえて必要な費用総額を算出し、計画的に積み立てておきましょう。

■計画期間全体における修繕積立金の平均額の目安(機械式駐車場分を除く)

 画像2.jpg

出典:『マンションの修繕積立金に関するガイドライン』(国土交通省)

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マンションを含めた建物は、所有する個人の資産であるだけでなく、まちを構成する大切な社会資本でもあります。高経年マンションのバリアフリー改修、省エネ改修、子育て支援対応改修などは公的な助成や税制優遇措置を受けられる場合があります。自治体独自の補助もありますので、工事を計画する際は、地元の市町村に問い合わせてみて下さい。

修繕・補修・改修でマンションの長寿命化と質・価値を向上し、住みよい暮らしとより良いまちづくりを実現していきましょう。

株式会社ヨコソーでは、修繕専業企業として大規模修繕工事に関するご不明点をできる限り解消し、より多くの管理組合様や建物オーナー様にとって最善の工事をご提供できるようサポートを行っております。

大規模修繕工事や建物調査診断、専有部分のリフォーム、給排水設備工事など、お気軽にご相談ください。

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