マンション大規模修繕工事の進め方<その2> 事例で見る修繕委員会の立ち上げ~施工会社選定

初めて理事や修繕委員会となる方へ向けてマンション大規模修繕工事の進め方を3回に分けてご紹介する2回目の記事です。今回は大規模修繕工事を成功させるための体制づくりとして、修繕委員会の立ち上げから施工会社の選定までについて、実際の管理組合での具体例を紹介しながら修繕委員の目線で紹介していきます。

目次

●1回目の記事はこちらからお読みください
マンション大規模修繕工事の進め方<その1>理事会と修繕委員会について

●大規模修繕工事の基本やポイントについて紹介しているページもあります
マンション大規模修繕工事とは

 

1.大規模修繕工事の体制づくり 修繕委員会の設置

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理事会の下部組織として大規模修繕工事に特化した専門委員会「修繕委員会」を設置し、組合員の中から委員を募集。検討作業を委任します。

<修繕委員の募集>
修繕委員の人数はマンションの規模に応じて5~10人が目安となります。
委員は組合員の中から立候補で募りますが、マンションの規模や居住者の年齢構成などによっては、どうしても委員のなり手が見つからないこともあります。そのような場合はマンション管理士などの専門家を招き、計画から完了までのサポートを依頼することが選択肢になります。東京都や横浜市・川崎市・相模原市・横須賀市など多くの自治体は窓口を設けて管理組合の支援体制を整えています。大規模修繕工事の時期が近付いたら相談してみてはいかがでしょう。

● Aマンション管理組合理事会(東京都大田区)
マンションの新築当初からの居住者2人が理事長と副理事長を務めていて、大規模修繕にも計画から完了まで一貫して関わりました。居住者の大半の方が理事長の顔見知りです。専門委員会を立ち上げ、10人程度の方に直接声を掛けて修繕委員への就任を依頼しました。委員会業務が負担にならないように毎年数人を入れ替えた他、総会で活発に反対意見を述べる人をスカウトするなどして、多くの人を巻き込みました。

● Bマンション管理組合理事会(神奈川県横浜市)
修繕委員会のメンバーを募集した時に立候補してくれたのはわずか2人。そこで、大規模修繕の期間中は任期を満了した理事会メンバーが翌年の修繕委員会へ移行することとし、規約を変更して総会で決議しました。理事は1年交代の輪番で5人体制。立候補の修繕委員2人とともに7人体制の修繕委員会で次期理事会を1年間サポートしました。ちょうどこのタイミングで理事を務めた方々は、2年にわたってマンションの運営に関わることになり、なかなか大変でした。

<修繕委員の役割分担>
修繕委員会のメンバーの役割はどのようなものがあるのでしょうか。
まず必要なのは、理事会やコンサルタント、施工会社との連絡窓口になる委員長。そして委員長をサポートする副委員長。その他、会議の記録係、広報や会計などを皆で分担してワンチームです。

● Bマンション管理組合理事会
委員長選びでは、理事長を務めた人を外して選びました。委員同士の連絡にはメールを使いましたが、インターネットを利用していない方にはメールを毎回紙に印刷してポストに投函し、常に最新情報を共有しました。今ならLINEでグループを作れば便利でしょうね。

 

2.パートナー(コンサルタント)の選定

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修繕委員会のサポート役として、大規模修繕工事の専門知識や経験を持つ人にパートナー(コンサルタント)になってもらうとスムーズです。パートナーは設計事務所や管理会社、管理組合団体・NPO団体、マンション管理士、施工会社など外部から選任することができます。
では、パートナーはどのように選ぶのでしょうか。

大規模修繕工事の実施方法には、主に施工会社に建物調査などのコンサルタント業務から設計、工事まで一括発注する「責任施工方式」と、調査・設計と工事を分離する「設計監理方式」があります。ここでは設計監理方式の場合で説明します。
大規模修繕工事の発注方式「責任施工方式」と「設計監理方式」の違いについての解説ページもあります。

<コンサルタント選び>
パートナーとなるコンサルタントの選考は、複数の候補者に選考会への参加を依頼し、プレゼンテーションや質疑応答を通じて行います。

まず、組合員へコンサルタントの推薦を募ります。近隣で大規模修繕工事を行ったマンションがあれば、担当したコンサルタントを紹介してもらうのも良いでしょう。公募やインターネットで検索した結果を含め複数のパートナー候補を挙げ、選考会への参加を依頼します。一方で、あなたのマンションの状態を一番良く知っているのは、日常の管理業務を担当するマンション管理会社です。管理会社の内部にコンサルタント部門や工事部門があり、建物診断や設計、長期修繕計画の策定業務などを受託できるのであれば、パートナー候補として選考会への参加を依頼しましょう。

選考会では1社(者)あたり30分~1時間を目安にプレゼンテーションと質疑応答を行います。長時間の説明を複数回聞いていると委員たちの集中力が落ち、適切な判断を下せなくなることがあるので、時間配分に注意しましょう。可能なら理事会役員にも選考会への出席を呼び掛け、なるべく多くのメンバーで検討してください。

マンションが抱える課題や問題点が分かっていれば、あらかじめ募集要項に盛り込み、解決策の提案を求めることもできます。例えば、耐震補強が必要なマンションなら構造計算に強いコンサルタント、新たにエレベーターを設置したいのなら後付け工事の設計実績のあるコンサルタントを選ぶようにすれば、その後の進捗がスムーズです。

信頼ができて、相性が良いと思われるコンサルタントに出会い委託金額の見積もりが折り合えば、パートナー候補として理事会に報告し、理事会承認を経て業務委託契約を締結します。選考に外れたコンサルタントへ落選通知を送る際は、選考会参加のお礼を添えましょう。

● Aマンション大規模修繕委員会
私たちは素人集団なので、早い段階で専門家(コンサルタント)に入ってもらい、いつまでに・何をするべきかを整理してもらいました。検討の方向性が明確になり、作業がスピードアップしました。

 

3. 建物調査診断

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外壁タイル打診チェック

コンサルタントが決まったら、早速建物の調査と診断です。あなたのマンションの現状と課題、大規模修繕工事の方針を説明するとともに、コンサルタント主導で居住者にアンケート調査を行い、マンションの気になる点や改善の要望などを聞き取りましょう。不具合の指摘があれば、それは大規模修繕工事で直すものなのか、日常管理の課題なのか、コンサルタントに判断してもらいます。

例えば、「窓枠のシーリングが柔らかくなっている」「壁の一部にひび割れがある」などの不具合は大規模修繕工事で対応します。「排水口から臭気が上がってくる」「階段の手すりがガタついている」などは、日常のメンテナンスで解決できそうです。「結露が著しい」「壁紙がはがれている」といった専有部分の不具合は、居住者が個別に対応するものです。

解決策として内装工事などリフォームを検討される場合は、工事中の騒音など近隣配慮の点からも大規模修繕工事のタイミングで実施するのがオススメです。施工会社でリフォーム相談会などができる場合は開催を依頼するのも良いでしょう。

● Cマンション管理組合理事会(埼玉県所沢市)
管理会社に長期修繕計画を見直してもらい、そのままパートナーとしてコンサルタント業務を委託しました。しかし、任せきりにしてはいけないと思い、修繕委員会で独自に勉強会を開きました。工事関係者に接触するとしつこく営業されるのでは?と心配する委員もいましたが、施工会社は総会で決議するもの。修繕委員は、”情報収集係”と位置づけ、積極的に専門業者を招き、営業担当者と会い、判断材料となる話を聞くようにしました。

 

4.修繕基本計画

コンサルタントが建物診断やアンケート結果を踏まえて工事項目を拾い出し、見積もり金額を算出して修繕基本計画を策定します。修繕委員会は計画内容の説明を受け、工事の必要性や価格の妥当性を確認します。

この時、マンションによっては必要な工事の見積もり金額が予算総額を上回り、修繕積立金の不足が判明することがあります。その場合は理事会に報告し、工事の一部を見合わせるか、使用する材料のグレードを下げる、あるいは大規模修繕工事を中止・延期するか、など抜本的な対応策を考える必要があります。

仮に工事を中止するとしたら、劣化が急速に進んでしまわないかコンサルタントに安全性の判断を仰ぎ、いつまで延期するのか決めます。例えば、タイルの浮きが見つかっていても、膝下の位置にあるタイルであれば落下して人にけがをさせる恐れは限定的なので延期とする、などの判断です。

工事を実施するのであれば、長期修繕計画を見直して再度工事費用を算出するとともに、資金調達の方法として各戸から「一時金」を徴収するか、金融機関から融資を受けるか検討します。長期修繕計画の見直しの結果、修繕積立金の値上げが必要になるかもしれません。

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出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」

 

5.修繕詳細設計

資金計画や基本計画を検討し詳細設計をまとめた「修繕委員会案」を理事会に報告したら、理事会は内容を確認し、大規模修繕工事の実施を正式に決定。借入金や修繕積立金の値上げが必要な場合は臨時総会を招集し、決議します。この時コンサルタントに同席してもらい、技術的な根拠を含め丁寧に説明しましょう。

追加費用の徴収や積立金の増額は、組合員の合意が得にくいこともあります。仮に100%の賛成が得られないとしても、全員に〝納得〟がいくよう説明を尽くす必要があります。

● Dマンション管理組合理事会(東京都台東区)
大規模修繕の5年前に地元自治体が開催したマンション管理セミナーに参加し、そこで紹介されたコンサルタントから、うちのマンションの修繕積立金は必要見込み額の3分の2にも満たないと指摘されました。慌てて現状を見直し、積立金額をそれまでの1.8倍に上げることとし、組合員に書面で通知しました。しかし、ほとんどの方が反対し、臨時総会で否決されてしまいました。いきなり値上げを通告されたら、反対するのは当然ですよね。そこで、大規模修繕の必要性や費用の詳細を丁寧に説明する資料をつくり、管理費の見直しも行い、もう一度臨時総会に諮りました。当日参加できなかった方と個別に会って話したり、遠方にいる方には電話で説明したりした結果、全員の合意を得ることができました。最終的な値上げ幅は、それまでの2倍となりました。


 

6.施工会社募集~選定

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長期修繕計画どおりの修繕を実現し大規模修繕工事を成功させる、施工会社の選定です。施工会社の募集要項として施工実績や所在地、資本金、技術者数などの要件を決め、建設専門紙などを通じて見積もり参加会社を募ります。この募集作業はコンサルタントが行いますが、応募書類・データが集まり開封~プレゼンテーションに参加してもらう企業の選考過程では、修繕委員が立ち会います。5社程度に絞り込み、選考会(ヒアリング選考会とも呼ばれます)への参加を依頼。コンサルタントを選定した時と同じく1社あたり1時間程度を目安にプレゼンテーションと質疑応答を行い、信頼できる会社を1社選びます。最も安い見積もり額を提示した会社にするのか、企業の施工実績を重視するのか、または、現場代理人予定者の実績や人柄で決めるのか。マンションの将来を見据え、慎重に検討・選定しましょう。

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施工会社選定一次審査項目の例

 

7.施工会社決定

施工会社の候補を選定したら、その結果と選考の経緯をまとめた「修繕委員会案」を理事会に提出します。理事会は修繕委員会案の説明と質疑応答を踏まえて工事の発注先を内定。総会に諮り正式に決定し、契約を締結します。その後、落選した会社に落選通知を送ります。

● Bマンション修繕委員会
見積り参加希望は18社からありました。会社案内を読み込む一次選考で10社に絞り込み、見積もりの提出を依頼。二次審査で見積もりを比較検討し、4社に対してヒアリング選考会への参加を依頼しました。最終的に2社による決戦となり、うちのマンション独特の課題解決対策でより具体的な提案をした1社を選定し、理事会に答申しました。工事の見積もり価格はもう1社の方が安かったのですが、修繕委員会では”安い施工会社探し”ではなく”将来にわたる高い工事品質を求める”ことを目標にして選んだことを説明し、理解を得ました。

 

<修繕委員会の透明性と公平性>
施工会社選定の過程で重要なのは透明性と公平性です。組合員は手続きが適切に行われているかといったことが気になるものです。委員会でのやりとりを全て透明にし、議事録を配布して組合員に共有しましょう。賛成意見だけでなく反対意見も記載することが大切です。議事録を補足する「ニュース・おたより」などを発行し、分かりやすく解説することで、居住者の理解をより一層深めようとする管理組合もあります。公平性については、委員の中にコンサルタントや施工会社と利害関係のある人がいる場合は、選定段階ではタッチしないなどのルールを定めておくと良いでしょう。

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理事長が工事請負契約を締結


2回目の記事では修繕委員会の立ち上げ~施工会社選定までについてご紹介しました。修繕委員会で主体的・能動的に活動することが良いパートナー会社や施工会社の選定につながることをイメージしていただけたのではないでしょうか。

次回の記事「その3・着工準備・工事中~完成・新たな維持管理へ」では工事説明会の開催~工事の開始~工事の完了~次の大規模修繕工事に向けた新たな維持管理のスタートについてご説明します。大規模修繕工事検討の進捗に合わせてぜひお読みください。

●その1
 「理事会と修繕委員会について」

●その3
 「着工準備・工事中~完成・新たな維持管理へ」

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