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大規模修繕に欠かせない『足場工事』。その種類と役割は?
足場の基礎知識
足場工事(仮設工事)とは、建物の外壁や屋根などの修繕や塗装、清掃作業を行う作業スペース「足場」を仮設構造物で設置する工事のことです。大規模修繕工事では建物全体を覆う大規模な足場が一般的で、設置費用は工事金額全体の2割以上を占めます。
作業員が安全に作業を進めるためには、安定した足場が必要不可欠です。超高層マンションの場合は最上階部分まで仮設構造物を設置することが難しいため、ゴンドラや昇降足場を用いることになります。足場の状態は工事の安全と品質に大きく影響するため、綿密な設置計画と居住者の生活に配慮した施工技術が求められます。
足場の種類
足場にはさまざまな種類があり、それぞれの特徴や用途に応じて使い分けられます。ここではマンションの大規模修繕で用いられる主な足場を紹介します。
◇ 楔式足場(くさびしきあしば)
楔(くさび)式足場は、銅管(鉄パイプ)を支柱として一定間隔に組み立て、手すりや斜材を支柱の緊結部にくさびで緊結するタイプの足場です。通称「くさび緊結式足場」や「ビケ足場」とも呼ばれます。ハンマー1本で組み立てや解体が可能な点や、複雑な形状の建物の施工に対応できる点が特徴です。しかし、鉄(銅)製の足場をハンマーで叩くため、作業中にカンカンと金属音が鳴る点がデメリットとして挙げられます。
【こちらをご参照ください】 Q.楔(くさび)式足場とは何ですか
◇ ゴンドラ足場(ごんどらあしば)
ゴンドラ足場は、2〜3人が乗れるサイズのゴンドラを建物の上部からつり下げる形で設置する足場です。各階が同一平面のマンションに向いています。工事が必要な箇所にだけ設置でき、仮設足場を搬入できないなど敷地の利用に制限がある場合に活躍します。施工箇所に合わせて移動させるためマンション全体を養生シートで囲む必要がなく、室内からの視界が遮られる期間が短く済みます。
日本ビソー株式会社 ゴンドラ足場
◇ 移動式昇降足場(いどうしきしょうこうあしば)
工事が必要な箇所の外壁にレールを固定して作業ステージを設ける足場です。高さ最大200mまで設置できるので高層・超高層建物の外部足場として使用されます。専用の動力線を敷設する必要があります。ゴンドラ足場と同様に施工箇所に合わせて移動させます。
株式会社タカミヤ リフトクライマー
◇ 単管足場(たんかんあしば)
単管足場は、単管パイプと呼ばれる円筒状の部材を組み合わせて作られる足場です。設置や解体が比較的簡単で、細かな調整がしやすいことが特徴です。中小規模の工事や補修作業で使用されます。
◇ 移動式足場(いどうしきあしば)
キャスター付きの足場。軽量で移動が簡単です。ロビーの天井や狭い場所、短期間の作業に適しています。大規模な工事には不向きです。
足場の機能と役割
足場が必要な工事は建物の外壁補修や屋上防水工事だけではありません。サッシ・ドアなど建具の改修、手すりやシーリングの改修も足場を設置することで安全で効率的に施工できます。これらの劣化が明らかになった場合は大規模修繕工事の中でまとめて改修し、仮設にかかる費用や居住者の負担を低減すると良いでしょう。足場の主な機能と役割は次の通りです。
作業員の安全確保
足場は作業員が高所作業を安全に行うために不可欠です。強度が不足すると、作業中の転落事故などのリスクが高まります。
作業効率の向上
足場がしっかりと整備されていることで作業員がスムーズに移動でき、作業効率が向上します。特に外壁の補修や塗装作業では、足場の設置状況が仕上がりの精度に直結します。建物全体を覆う枠組足場の場合はどこからでも工事に着手でき、完了したところから検査や手直しができます。工程管理が容易で、一定の範囲内で居住者の要望を工事スケジュールに反映することも可能になります。
建物や周辺環境の保護
仮設構造物の足場には飛散防止ネットや覆いシートを取り付けます。これにより工事中に発生する塗料や粉塵、工具などが周囲に飛散するのを防ぎます。近隣住民や建物周辺の環境への影響を最小限に抑える役割も果たします。
工事の品質確保
高所作業の安定性が確保されることで、補修や塗装作業の精度が向上し、工事全体の品質が向上します。
工事期間中の注意点
マンション居住者が工事の期間中に快適に過ごせるよう、足場工事に関する注意点を以下にまとめました。
◆ 騒音と振動への備え
枠組足場の組み立てや解体作業では金属音や振動が発生します。足場を壁に固定する際にはドリルで下穴を開け、ハンマーを用いてアンカーを打ち込みます。この時の騒音は76デシベル程度といわれています。これは電車や地下鉄の中に近い大きさです。
1フロアに4戸×5階建てのマンションの場合、組み立てや解体作業にかかる日数はおおよそ1週間です。作業時間帯を考慮しながら実施するため、一日中騒音が響くことはありませんが、ゼロにすることはできません。作業期間中は工事スケジュールを確認し、工事の予告があったら「大きな音がする」「振動が発生する」ことを理解しておきましょう。
大規模修繕工事を完了した、あるマンションの居住者は「自宅部分の足場を設置する時に大きな音が響くと聞いていたので身構えていました。ドリルやハンマーの音と振動に驚きましたが、作業員の方は30分もしないうちに隣に移動してしまい、思ったよりあっけなかったと記憶しています」と話します。
株式会社ヨコソー 足場の仮設
◆ プライバシーの確保
足場が設置されると作業員が窓の近くを通ることになります。日中でもカーテンやブラインドを閉め、プライバシーを守る工夫をしましょう。
◆ ベランダの片付け
ベランダにプランターやゴミ箱、ウッドデッキなどがあると、汚損してしまったり工事の妨げになったりします。スムーズな施工のため、施工会社からの案内に従って植木を所定の位置に移動する、網戸を外して室内で保管するなどして協力しましょう。エアコンの室外機や物干し竿はそのままで問題ありません。
株式会社ヨコソー 大規模修繕工事に必要なベランダの片付けとは?
◆ 安全の確保と防犯対策
居住者が足場周辺に近づくのは非常に危険です。ベランダの足場へは絶対に上らないでください。特に小さなお子さまがいる場合は、遊び場を工事区域から離れた場所に制限するなどの注意が必要です。また、足場を伝って住戸に侵入する窃盗事件も発生しています。昼間や高層フロアであってもサッシ窓の施錠を普段以上に心がけましょう。施工会社ではサッシ窓に取り付ける補助錠の貸し出しを行っていますので、防犯対策として活用することをお勧めします。
ヨコソー株式会社 工事中の防犯対策について
まとめ
足場工事は大規模修繕工事の成功を左右する重要な工程ですが、最も騒音や振動、粉じんなどが発生する工事でもあります。足場の必要性を理解し、安全で円滑に進むようご協力をお願いいたします。