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2回目の大規模修繕工事!どんなところに気を付ける?注意点や成功のポイントをご紹介
2回目の大規模修繕工事の内容
国土交通省の「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によると、大規模修繕工事の平均修繕周期は1回目が15.6年、2回目が14.0年、3回目が12.9年で、ほとんどのマンションが築30年までに2回の大規模修繕工事を行っています。
2回目の大規模修繕工事の内容をみてみましょう。
1回目の大規模修繕工事では新築時の初期性能の回復を目的に、外壁補修やバルコニー・廊下・階段等の床防水、鉄部塗装などの基本工事を実施しました。2回目は、1回目の基本工事を含めた総合改修に加え、集合郵便受けや掲示板、宅配ボックスなど金物関係の更新が必要になる場合が多く、給水設備関係の配管・機器の改修(共用部分の更新)を行うこともあります。居住者のニーズに応えるグレードアップや資材の長寿命化が加わるほか、屋上防水については1回目のタイミングで十分に機能していたマンションも全面改修する時期です。

2回目の工事項目を検討する際は、長期修繕計画の見直しを行うとともに、3回目以降を見据え、修繕周期を長期化する工法や材料のグレードアップを検討すると良いでしょう。3回目では基本工事以外にも▷玄関扉▷窓サッシ▷エントランス周り▷外断熱工事―などが検討対象となります。また、設備関係では共用部分だけでなく専有部分の給排水管も劣化が進み、エレベーターの更新、電気の容量不足の改善等についても視野に入れる必要があります。外構関係では工作物や機械式駐車場等が更新の時期を迎えるため、これらを総合すると、修繕範囲がさらに拡大するからです。
国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」より
2回目の大規模修繕工事の注意点
2回目の大規模修繕工事を「1回目と同じようにやればよい」と考えていると思わぬ落とし穴があるかもしれません。建物の〝中年期〟にあるマンションは1回目とは課題も目的も異なり、ここでの判断がその後の建物の〝健康寿命〟に大きく影響します。 よくある課題を挙げました。
< 課題 ① > 1回目の修繕履歴・アフター記録が整理されていない
2回目の大規模修繕工事では、1回目の工事情報の活用が重要です。設計図書や仕様書、竣工図、工事報告書があれば、どこを補修したのか、どのような材料を使ったのかが分かり、2回目の工事項目や仕様を検討するのに大変役に立ちます。 しかし、今から10年以上前のこと。資料をどこに収納したか・だれが持っているのか分からなくなっていたり、紛失してしまったりしているかもしれません。アフター点検で指摘された部分についても補修せずに放置していたとしたら、工事記録そのものがありません。
そのような場合は、まず、1回目の大規模修繕工事に関与した施工会社やコンサルタントに資料が残っていないか問い合わせ、提供を依頼してみましょう。 当時の施工会社が存続していないなど、どうしても資料が見つからない場合は、コンサルタントや設計事務所に依頼して新たに図面を書き起こすことになります。
工事の履歴は人間でいう健康診断の記録。理事会役員が輪番制で交代する管理組合は、資料の棚卸の際に所在をしっかり確認して引き継ぎましょう。
● ● ● ● 仲六郷ハウス修繕委員に聞きました ● ● ● ●
1回目・2回目の大規模修繕工事の資料が見当たらなかったので、修繕委員会で仕様書を作り直しました。これは委員に建築・土木の調査業務に携わる人やIT企業に勤務する人がいたから可能でした。3回目の大規模修繕工事の完了後は、関連する資料だけでなく全ての工事情報を電子データに変換して保管しています。日常のメンテナンスや次の大規模修繕工事に活用するためです。
後日談ですが、大規模修繕工事が終わった後、過去の資料が全て書棚の奥に大切にしまってあるのが見つかりました…。
< 課題 ② > 劣化の進行が予想より早い
鉄筋コンクリート造の建物の耐用年数は100年といわれますが、築25〜30年が経過すると躯体の中性化・タイルの浮き・鉄部の錆の進行などが進みます。その結果、
- 下地補修の量が予想より増える
- 防水層の劣化で全面改修が必要になる
- 給排水管・電気設備の更新を同時に検討せざるを得ない
など、1回目にはなかった修繕によるコスト増が起こりがちです。 そこで、劣化診断は打診・赤外線・フィッシャー試験など複数の診断手法を併用し、調査の精度を上げましょう。補修量を最小〜最大まで幅を持たせて拾い、費用を試算することが重要です。
< 課題 ③ > 世代交代による合意形成の難しさ
新築マンションも築年数が経つにつれ、世代交代により居住者の年齢層が変化し、新しく購入したファミリーや賃貸で住む人、高齢の長期居住者など価値観の異なる居住者が混在します。大規模修繕工事に否定的な意見が出されることもあります。
例えば、
- 年金暮らしだから少しでも負担増になる修繕には反対
- 私は賃貸だから関係ない
- そもそも工事が必要なのか
などの声が多数になると、大規模修繕工事の合意形成が困難になります。このような相違は多くの場合、過去の修繕工事の経緯やマンションの現状を知らないことにより起こります。理解を得るには、
- 説明会は1回ではなく平日夜・休日午前など複数回に分けて開催する
- 配布資料は専門用語をつかわず図解中心の分かりやすいものを作成する
- Web説明会・動画・進行状況の写真共有などで検討の過程を〝見える化〟する
- 理事会と修繕委員会での検討過程を全て開示する
などの取り組みが必要です。あるマンションでは、できるだけ多くの居住者に納得してもらえるよう、オンライン形式と対面形式の2パターンで複数回に分けて説明会を実施していました。対面形式で参加されたのは全世帯の15%程度でしたが、オンライン形式も合わせると、毎回40%に上る居住者が参加していたそうです。 同じ屋根の下に住む居住者同士、〝良い住まいづくり〟〝不動産価値の向上〟という共通の目的を示し、工事の必要性を何度も説明して協力を求めましょう。
< 課題 ④> 施工会社の見直し
2回目の施工会社を前回と同じ会社にするか、改めて見積もりを依頼して選定するか―。 先に述べた通り、過去の工事履歴を保管している施工会社は、建物の状況や劣化しやすいポイントを熟知しているためアドバンテージがあります。しかしながら、1回目と2回目では建物の状態は別物です。工事仕様書は前回の内容を基本とするのではなくゼロベースで見直しましょう。その結果、設計監理方式・責任施工方式のどちらが適切かの評価が異なるかもしれません。設備工事の方を得意とする会社が適任かもしれません。理事会・修繕委員会で判断するのが難しい場合は、管理会社やマンション管理士に意見を求めましょう。
● ● ● ● 仲六郷ハウス修繕委員に聞きました ● ● ● ●
3回目の施工会社選定では、1回目と2回目の施工会社に加え、新たに営業に来た施工会社を加えた3社から見積もりを徴集して検討しました。選考過程の透明性を確保するため、マンション居住者と個人的なつながりのある会社は、見積もり参加の前にお断りしました。
2回目の大規模修繕工事を成功させるためには
ここまでの説明を踏まえ、2回目の大規模修繕を成功させるためのポイントを三つまとめます。
1.過去の工事記録を生かす
2回目の大規模修繕工事に向けた準備では、長期修繕計画の見直しを行うとともに1回目の大規模修繕工事の設計図書・工事報告書・アフター点検記録を整理し、補修した箇所・使用材料・施工不具合の有無を確認しましょう。材料費や人件費が高騰しているため、建設物価の動きにも注意し、修繕積立金が不足しないか精査することが重要です。さらに、次の大規模修繕工事のために、修繕履歴をPDFファイルにしてパソコンへ保管するなどデジタルデータで残す仕組みを導入しておきましょう。公益財団法人マンション管理センターが運営する「マンションみらいネット」や一般社団法人住宅履歴情報蓄積・活用推進協議会が普及・啓発する「いえかるて」住宅履歴情報システムなどを活用すれば、組合員がいつでも閲覧できて便利です。
2.長期修繕計画との整合を図る
将来予定される設備更新と重複しないよう、長期修繕計画と参考にしながら、本当に必要と思われる工事項目を検討しましょう。例えば、▷緊急性が低く足場架設の不要な工事は数年先送りする ▷省エネ改修など国や自治体の補助を活用できる工事は補助事業の実施年度に行う―など、状況に応じて柔軟に対応するのがコツです。長期修繕計画は、修繕積立金が不足しないよう計画的に修繕するための「道しるべ」。計画通りに進めることが目的ではありません。建物の状態に基づいた工事の優先順位づけを行いましょう。
● ● ● ● 仲六郷ハウス修繕委員に聞きました ● ● ● ●
3回目の大規模修繕工事に先立つ2年前に、全住戸のサッシを二重サッシに改修しました。長期修繕計画ではサッシ改修を3回目以降の大規模修繕で予定していましたが、居住者から理事会に「結露で困っている」との相談が寄せられたことをきっかけに検討を開始。サッシメーカー数社に相談し、国や東京都の補助金を活用できるタイミングだったこともあり、先行して改修することを決議しました。その結果、長期修繕計画に計上した見積もり額を大きく下回る費用で施工でき、3回目の大規模修繕工事の費用を削減することができました。結露だけでなく外部の騒音も低減しました。
3.居住者層の変化を把握する
居住者のニーズを聞くアンケート調査などを行い、その際に居住者層の変化も把握しましょう。新入居者・高齢化・賃貸化など居住者層が多様化すると、1回目の時より合意形成が難しくなることが考えられます。アンケート結果を踏まえて工事項目を見直す他、工事説明会は動画に記録して配信するなど、オンラインによる情報共有の仕組みづくりも工夫したいところです。情報を〝見える化〟し、丁寧なコミュニケーションによる合意形成を目指しましょう。
まとめ
2回目の大規模修繕工事は1回目と比較して工事項目やコストの規模が拡大しやすく、管理組合・理事会だけで全てを検討し、判断するのは簡単ではありません。とくに近年は、施工会社の選定プロセスや見積内容の妥当性、情報開示のあり方などが問われます。「誰と組んで進めるか」。建物の状況を正しく把握し、長期修繕計画との整合を図りながら、管理組合・理事会の立場に立って助言してくれる “町医者”のような信頼できる専門家・パートナーを見極めることが、安心感・納得感のある大規模修繕につながります。

㈱ヨコソーでは、2回目・3回目の大規模修繕工事を見据えた事前相談や建物診断を承ります。お気軽にご相談ください。
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