マンションの老朽化によっておきる問題とその対策方法を考える

目次

戦後の経済発展以降、多くのマンションが建設され、現在に至るまで供給され続けてきました。しかし、築年数の経過とともにマンションは老朽化し、長期修繕計画の見直しやマンションの管理不全※1が管理組合を悩ませる社会的な問題となっています。そもそもマンションの老朽化とは何なのか、老朽化によって起きる問題と対策について解説していきます。

※1「マンションの管理不全」とは?関連記事はこちら

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高経年マンションの抱える問題

高経年マンションは年々増え続け、全国でマンション老朽化の問題が深刻化しています。国土交通省の報告によると、築40年を超えた高経年マンションのストック数は、平成30年(2018年)時点では81.4万戸であり、令和10年(2028年)には197.8万戸に、令和20年(2038年)には366.8万戸にも及ぶと推測されています。

高経年マンションのストック数の推移
出典:国土交通省住宅局「マンション政策の現状と課題」
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001313642.pdf

築40年を超える高経年マンションは居住者の高齢化や、区分所有者と連絡が取れない空き家住戸が増えることにより適切な維持管理が行われず、外壁の劣化や鉄筋の露出等の建物の老朽化による不具合が起きるリスクが高まります。そして、このような老朽化したマンションでは、外壁が剥落し居住者や近隣住民等に生命・身体に危険を及ぼす問題が発生するといった例も報告されています。

 

マンションの老朽化によって起きる問題

では、具体的にマンションが老朽化するとどのような問題が発生するのでしょうか。

 

建物や設備などの「物理的劣化」

物理的劣化の主な例は以下のものがあります。

例えば、マンションの主な構成物であるコンクリートは、経年劣化により天井や壁、床などのコンクリートにひび割れが生じますが、適切な修繕が行われないまま雨水がかかると、ひび割れをつたって室内に漏水してしまうのです。

そうならないよう基本的に屋上やバルコニー、廊下などの雨がかかる箇所にはコンクリートの上から防水工事がされていますが、防水層が劣化し浮きや剥がれがあると防水層の下にあるコンクリートのひび割れから雨水が侵入し、室内に漏水する可能性があります。

老朽化したマンションで発生する建物の不具合では、給排水管の劣化によるものを含め漏水や雨漏りがマンション全体の40%と最も高い発生率となっています。
(参照元:国土交通省「平成30年度マンション総合調査」https://www.mlit.go.jp/common/001287645.pdf

老朽化マンションで最も多い漏水問題。
コンクリートのひび割れからの雨水の侵入や給排水管からの水漏れが主な原因。

 

また、老朽化による不具合は生命・身体に危険を及ぼす問題となることがあります。鉄筋の発錆によって外壁のコンクリートが押し出されることで起きるコンクリートの破壊(鉄筋爆裂※2という)や、タイル自体の接着力が低下すること等が原因となり、コンクリートやタイルに浮き・剥がれ発生し、自らの重みに耐えられず剥落してしまう危険性があるのです。

不具合の発生箇所が廊下の天井や、外壁の高い所だった場合は落下したコンクリートやタイルで怪我や物損の恐れがあります。もし道路に面した外壁で発生した場合は、剥落したコンクリートやタイルが通行人や車、周囲の建物等、マンション以外の第三者に危害を加えてしまう恐れすらあるのです。

※2鉄筋爆裂とは、コンクリートのひび割れ等から水分が侵入し、内部の鉄筋が錆びることで膨張し、コンクリートが盛り上がって押し出される現象のこと。


天井の鉄筋爆裂はコンクリート片剥落の可能性があり危険

 

給排水管等の設備の劣化に関しては日常点検では確認しづらい場所にあり、気付かないうちに老朽化が進みやすい箇所です。こちらも給排水管の劣化が進むことで漏水したり、水が出なくなるといったリスクがあります。

給排水設備は見えない場所にあり劣化診断が困難
(写真は内視鏡による給排水管の劣化診断の様子)

給排水管のメンテナンスについて詳細はこちら

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新築時の価値が下がってしまう「機能的劣化」

機能的劣化とは、新築時には最新だった設備等が、その後高機能製品が開発され普及することにより、相対的に新築時の設備が使いにくいものとなってしまうことをいいます。

エレベータや防犯システム、給排水設備の給水方式が代表的な例です。当時は最新鋭だった設備でも、新たな製品やシステムが開発されることで、いずれは新築時の付加価値が失われてしまいます。時代にあわせた設備の更新等を行わないとこのような機能的劣化とつながってしまうのです。

 

生活様式やニーズの変化による「社会的劣化」

生活様式やニーズが時代とともに変化し、マンションに求める住宅水準は新築時と現在を比べると大きく変化しています。こういったニーズの変化にマンションの設備や機能が対応できず、住みにくくなってしまうことを社会的劣化といいます。

例えば、共用部の社会的劣化の例として、マンションの空き駐車場問題は多くの管理組合が抱えていることでしょう。居住者の高齢化や若い世帯の車離れ、レンタカーやカーシェアリングの普及、車両が大型化し既存の機械式駐車場では駐車出来ない等の理由から駐車場の借り手が減っている背景があります。管理組合としては、駐車場使用料の収入が減る一方でメンテナンス費用は変わらずかかってしまうため、空き駐車場問題は多く聞かれる問題です。

 

また、駐輪場に関しては駐車場とは逆の現象が起きています。自転車の利用者や不要自転車が増え続けることで、駐輪場の台数が足りなくなっているのです。限られたスペースを有効活用するために2段式駐輪場を採用しても、高齢者や電動アシスト付き自転車の利用者が増えたことで重量のある自転車をラックの上段に乗せることが困難になり、結果的に下段に利用希望者が集中してしまうという課題もあります。そのため駐輪場の問題は駐車場の問題と合わせて多くの管理組合を悩ませる問題となっているのです。

そして、現在ではマンションもバリアフリーやユニバーサルデザインに対応することが当たり前に求められている時代です。高経年のバリアフリーやユニバーサルデザイン未対応マンションでは、エントランスや廊下内の段差やエレベータがない、階段に手すりが付いていない等、特に身体の不自由な方や高齢者にとって住みにくい建物となってしまっており、社会的劣化が大きな問題となっています。

 

耐震問題

建築基準法の耐震基準が改正され、1981年6月以前に確認申請を受けたマンションは旧耐震基準の建物となります。新耐震基準では、震度5強程度の中規模地震では軽微な損傷、震度6強から7に達する程度の大規模地震でも倒壊・崩壊は免れるといった基準を義務付けています。

一方、旧耐震基準で建てられたマンションでは、震度6強から7に達する程度の大規模地震についての規定はなく、震度5強程度の中規模地震においても倒壊は免れるが損傷を受ける可能性があるというものでした。2020年現在、築40年を超えるマンションで旧耐震基準の建物であれば、老朽化の問題と合わせて今すぐ対策を考える必要があります。

マンション老朽化の対策出典:国土交通省「新耐震基準の概要」
https://www.mlit.go.jp/common/000188539.pdf

 

マンション老朽化の対策

マンションの老朽化にあたり、管理組合ができる対策方法としては大きく3つあります。

①    修繕・改良・改修

「修繕」「改良」「改修」には大きな違いがあります。国土交通省の「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」では以下のように定義されています。

  • 「修繕」とは、部材や設備の劣化部の修理や取替えを行い、劣化した建物又はその部分の性能・機能を実用上支障のない状態まで回復させる行為をいいます。(一般的には、建物の建設当初の水準にまで回復させることが目標とされます。)
  • 「改良」とは、性能・機能をグレードアップさせる工事のことをといいます。
  • 「改修」とは、修繕及び改良により建物全体の性能を改善する工事のことをいいます。

例えば、割れてしまったタイルの張替えや外壁の塗り替え工事は「修繕」、エントランスの手動ドアを自動ドアに変更する工事は「改良」、エレベータやスロープの設置工事は、「修繕+改良」により建物全体の機能や性能をグレードアップさせる工事となり「改修」にあたります。


計画修繕と改修の重要性
出典:国土交通省「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」
http://www.m-saisei.info/horei/enkatsuka/manual/kaisyu.pdf

 

これから老朽化が深刻化する高経年マンションは、長期的にマンションを維持していくために、劣化や不具合の起きた部分を「修繕」することに加えて、時代とともに変化を続ける住宅水準に見合うようにマンションの性能をグレードアップする「改良」「改修」が求められています。

 

②    建替え

2003年6月に区分所有法が改正され、区分所有者等の5分の4以上の合意があればマンションの建替えが可能となりました。しかし、実際にはマンションの建替えはハードルが高く、建替えが実現するケースは少ないのが現状です。マンションの建替えが難しい理由としては、建替え費用が莫大であることが大きいでしょう。

 

③    敷地売却

「マンション敷地売却制度」を活用することで、マンションを一括して売却することができます。ただし、マンションの売却には「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」に基づき、除却の必要性に係る認定(耐震性不足の認定)を特定行政庁から受ける必要がある、区分所有者・議決権及び当該敷地利用権の持分価格の5分の4以上の多数でマンション敷地売却決議の必要がある等の厳しい条件があります。

敷地売却制度についての詳細はこちら
国土交通省「耐震性不足のマンションに係るマンション敷地売却ガイドライン」
https://www.mlit.go.jp/common/001064249.pdf
 

まとめ

築年数の経過とともに、マンションの老朽化は管理組合にとって避けられない問題です。しかし、材料性能の技術革新により「100年マンション」の実現も可能な時代となりました。管理組合はマンションの建物維持のための長期修繕計画を定期的に見直し、定期的なメンテナンスと管理組合機能の維持を次世代へとつなげていくことが重要です。
 

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